東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学専攻 公衆衛生学分野

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2006年度(平成18年度)公衆衛生学教室同窓会総会

会長挨拶

 恒例によりまして、この1年間を振り返ってお話をさせていただきたいと思います。

 毎年このタイトルで「研究・教育・人事・学会」となっていますけれども、この1年間で一番おめでたかったことは、久道先生が日本医学会の副会長にご就任されたことであります。日本医学会というのは、日本中のさまざまな医学会を束ねる学会でありまして、公衆衛生学会や疫学会は日本医学会の分科会です。会長が高久先生です。副会長が、基礎・臨床・社会の各分野から1人ずつ、合計3名の方が選ばれています。長いこと東大の小泉先生が社会医学系の副会 長をしておられたのですが、今回、久道先生が選ばれた訳であります。実は東北大学の先生で日本医学会の副会長を務められたのは石田名香雄先生以来ですので、大変名誉なことであります。先生には高いところから、また色々とご指導いただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 もう一つは、司会をしている栗山先生が、講師から助教授に昇進しました。大変頑張ってもらっております。
 この教室全体の今年一番のメインイベントは、大崎市市民健康調査というものであります。大崎国保コホートというのが動いておりますが、これは実は、今日お見えの黒田先生が当時の大崎保健所の所長をしておられたときに、無理矢理お願いして作らせていただいた5万人のコホートですけれど、それが平成6年に始まってから今では12年たちまして、データが成熟しております。医療費関係では医療制度改革でもエビデンスとして使われましたし、また通常の疫学研究としても世界的に注目されるようなコホートにお陰様で育ってきました。コホートが熟すまでには10年ぐらいかかりますけれども、そのままずっと熟し続けるかと言うとそうではなくて、だんだん熟し過ぎて学問上の生産性も落ちてくるわけであります。その辺のタイミングを考えて、そろそろもう一つ新しいコホートを作らなければいけないかなと思っておりましたが、今回、古川を中心とする1市6町が合併いたまして、黒田先生以来、その後には佐々木先生も所長をしておられました関係で、大崎には私も出入りさせていただいていたので、合併協議会には久道先生と私で月に一遍ぐらい古川に通いまして、地域医療のあり方とか議論させていただいておりました。その中で、合併したら市民健康調査をすべきであるということを合併協定書に書いておいたことがあって、今年の6月ぐらいから市の方とも協議しまして調査態勢が出来上がりました。40歳以上の大崎市民7万8千人を対象として前回と同じような生活習慣アンケート調査をすることになりました。特に65歳以上の方については少し簡単にして、しかも、介護保険の関係も調べることにしました。そこで、65歳以上と40~64歳で調 査票を分けております。
 この7万8千人の袋詰めを、大体10月から11月の半ばにかけていたしまして、教室員にも手伝ってもらいました。11月25日頃から各地の区 長さんが住民の方々を訪問して調査票を配付しております。記入した調査票は郵送で送ってもらうという形になっています。本日は調査が始まってまだ3日、4日の段階なのですが、どれくらい回収されるのか心配しております。先程、大崎市の方から聞いたところでは、今日の段階で、返送が1万件を超えているそうで す。立ち上がりから数日でそこまで帰ってくるということは、高い回収率が期待できるのではないかと楽しみにしております。この調査が5年後、10年後に、教室を代表するようなデータになってくれることを祈っているわけであります。(追記:最終的には5万件を若干上回る方々からご返送いただき、当初の目標を達成することができました。)

 恒例のベストペーパー賞ですが、これは大崎国保コホートから出てきた研究で、栗山先生の論文です。緑茶の摂取が心血管系疾患の死亡率を下げるという内容で、JAMA、アメリカ医師会雑誌に掲載されました。実はこの大崎コホートができたときに、これは何としてもJAMAに出したいと思って投稿したのですが、かなりいい線のところまでいって落とされたという経緯があって、そのころからの積年の気持ちがようやく実ったもので、私も本当にうれしく思っております。これからも、大崎国保コホートは熟しておりますので、JAMAに限らず、やはりNew England JournalやLancetをねらえるような、そういった研究をみんなで頑張っていきたいと考えております。
 もう一つ、ベストペーパー賞特別賞ですが、長沼君という医学部4年生に贈りたいと思います。基礎修練というものがありまして、医学部3年生が11月から3月まで、5カ月近く基礎の教室に配属されまして、我々と全く同じような研究生活をするというものです。そこで彼がコーヒーと大腸がんとの関係について、宮城県コホートのデータを使いまして分析しまして、その後、ぜひ論文にしたいと言ってくれました。夏ぐらいには書き終えてしまいまして、International Journal of Cancerに投稿したら、すぐ返事が返ってきまして、2カ所か3カ所だけ直せばアクセプトしますという返事でした。なかなか我々も普通もらえないような素晴らしい返事をジャーナルからいただきまして、載った次第であります。基礎修練の学生が書いた論文がIJCというハイレベルな雑誌に載るということは、うちの研究レベルの高さ、そしてまた教官や大学院生諸君の教育能力の高さということを証明するものではないかと、非常にうれしく思っています。ベストペーパー賞特別賞として表彰したいと思います。

 新人ですが、今年は2人入ってくれました。一人は大学院修士課程の曽根君ですね。彼は作業療法士(OT)でありまして、いわきの病院に勤めていたのですが、家族もいるのに病院を辞めて無職になって大学に入るという、本当に思い切った人であります。その分だけ本気でありまして、非常に熱心に頑張ってくれていますので心強く思っております。もう一人は大学院研究生の東口先生です。彼女は栄養の先生で、既に学位を取っているのですが、さらに勉強したいということで研究生になりました。盛岡大学に勤務していまして、実家が角館なのですがそこから通うというので、無理なのではないのかな、と最初は思っていたのですが、もう半年たちますけれども、毎週来て一生懸命やってくださっています。ですから、今回入られた2人の一生懸命やっている姿が、むしろ我々教官や先輩の大学院生たちにとって大きな刺激になっています。非常にいい人たちに入ってもらえたなと喜んでおります。このお二人についは後で自己紹介をしていただきたいと思います。

 これで最後になりますけれども、私自身にとりまして、この1年間を振り返って一番うれしかったことは、今から3年前に出版した「のばそう健康寿命」という著書の中国語版が台湾の出版社から出ました。「のばそう健康寿命」というタイトルは中国語で「延長健康寿命」となります。本当にわかりやすい翻訳ですけれども、こういった形で自分の書いたものが、違った文化で、全然知らない人たちの中で広がっていくというのは、大変に光栄に思っております。だんだん欲が出てきまして、韓国語にも訳してもらったら、東アジアの日本語・中国語・韓国語の三大言語圏で読まれるのではないかなどと韓国人と会うといつもそういう話をしているのですが、なかなか色よい返事はもらわずに今に至っている状況であります。
 そういった形で教室も大変順調に動いておりますし、大学院生の方も本当にまじめに頑張ってくれていますし、研究も今申し上げたような形で進んでおります。そういった形で皆さんにご紹介できることを本当に光栄に思います。

 これから講演いただきます粟田先生とは、もともと精神科の助教授だったころに初めてお会いしまして、鶴ケ谷のうつ対策をやっていただいたので すが、その後、仙台市立病院に移られまして、そこで鶴ケ谷のうつに対する地域ケアをさらに広げるような形で今大きなプロジェクトを始めておられます。去年から非常勤講師になっていただきまして、今年初めて学生に精神保健について講義をしてもらったのですが、講義後の学生アンケートでは非常にすばらしかったと大評判でありまして、基礎修練も粟田先生のところでやりたいという学生がたくさん出てきました。大変いい講義をしていただいて、こういった先生に恵まれてよかったなと思っております。そういったことも含めて、今日はご講演いただきたいと思います。よろしくお願いしますということを申し上げて、私の挨拶にさせていただきます。

 どうも有難うございました。

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