東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学専攻 公衆衛生学分野

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2012年度(平成24年度)公衆衛生学教室同窓会総会

会長挨拶

 みなさん、こんばんは。例によりまして、教室の研究、教育、人事について、この1年間を振り返る形でお話をいたします。

 今年、私にとって一番大きかった出来事といえば、厚生労働省「健康日本21(第二次)」の計画策定委員会の委員長を務めたことです。昨年の後半から1年近く、このことを考え続けていましたが、今年の7月10日に大臣告示が出されました。基本的な方向性を見ていきますと、健康格差に取り組むこと、社会生活を営むために必要な機能の保持、健康を支え守るための社会環境の整備という形で、最新の健康づくり理論を反映したものになりました。
 この中で一番大事な目標は「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」ということです。これが実は私にとって非常に感慨深いものであります。「自分の研究者人生を決めた論文を一つだけ出せ」と言われたら、その答えは1980年にスタンフォード大学フリーズ教授がNew England Journalに発表した”Aging, natural death, and the compression of morbidity” という論文になります。趣旨を述べますと、人間の寿命には限界がある、その寿命が上限まで来たときに、さらに健康増進を進めることによって要介護あるいは障害を持つ期間を遅らせることができれば、その結果として、罹病期間の短縮(compression of morbidity)は実現するというものです。これが1980年に発表された後10年以上にわたってずっと、compression of morbidityが本当に起こるのだろうかという論争がありました。それを経て、compression of morbidityを達成するにはどうすればよいか考えていこうということが、90年代に私がちょうどジョンズ・ホプキンズ大学に留学したときに議論されていました。その議論に巻き込まれるなかで、健康寿命という概念もわかってきて、そして教室にあるデータを使えば健康寿命を測定できることが分かったので、その計算方法を教わって勉強していました。その中で、平均寿命の延び以上に健康寿命を延ばしてcompression of morbidityという理想を実現することが自分の課題なのだと決意して日本に帰ってきたわけです。それ以降の私の仕事はすべて、compression of morbidityに向けたものでしたが、それから20年たって、この課題を「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」として、国の政策のなかに書き込むことができたことは、私自身にとりまして感慨深いことであります。ただ、これはプランとして入れたというだけなので、これから10年間の健康づくりプランの中でこれを実現していくことが、これからの自分自身にとっての課題というか使命なのだということで、また気を引き締めている次第であります。

 それから、もう1つの教室の大きな出来事は、鶴ヶ谷プロジェクトの10年後調査を実施したことです。これについては、私はほとんど関わっておりませんで、柿崎先生に全部やってもらいました。柿崎先生の下でみんな一丸となって働いてくれて、私はほとんどしなかった。しないでも済む、それくらい成長してくれました。今日ここに来てくれている坂東先生が宮城野区の保健福祉センターの所長でもいらっしゃいますので、そういった点でもやりやすかったということがありました。10年前の調査にご協力いただいた1,445人、この方々は当時、平均年齢が75歳でしたが、今年つまり10年後には、そのうち約1,000人が住民票の上で対象になっていました。とは言え、郵送調査をしたら、転居先不明という方もいらっしゃったので、実際にたどり着けた907人のうち794名から回答がありました。つまり回収率88%でした。郵送調査で88%というのは、実に高いですね。どうしてなのかということで考えてみたら、その当時の受診者の方から、これに関わった方々から、いろいろな面で支持されたプロジェクトだったのかなと思います。その当時、健診に加えて、その後の事後指導、運動教室など、いろんなことをしましたので、それが皆さんから支持された。だからこれだけの高い回収率をいただくことができたのではないかと思います。その一つの例としまして、住民の方からいただいた葉書を紹介したいと思います。この方は、実は2年目の健診のときに、10メーター歩行でつまずいて肉離れを起こしてしまいました。その当時、寳澤先生がナンバー2というか現場監督だったので、私と寳澤先生とでお見舞いに行きました。その後、とくに問題なく経過したのですが、その方から今回の調査の際にお葉書をいただきました。読んでみます。
「私こと、10年前の鶴ヶ谷プロジェクトに参加。大変お世話さまになりました。ただ、最終課目の『早歩き実施』で左足の肉ばなれの事故をおこし、大変なご迷惑やらご心配をおかけ致しました。高齢のせいか治癒が思うようにはかどらず苦痛でしたが、先生には一早くお見舞いに拙宅までわざわざお出でいただき、恐縮と有難さでいっぱいでした。長いこと正座が困難でしたが、年月も過ぎ、現在は元通りの状態となっておりますので、他事ながらご休心くだされたく願い上げます。プロジェクトでは、いろいろなご指導、アドバイスなどを通して、この超高齢化社会を生きていくための精神面での意識の高揚を植え付けていただきましたことが何よりの収穫であったと、今なお思い続けております。有難うございました。ここに多くの感謝をこめつつ、本当に遅ればせながら十年後の私の報告とさせていただきます」
 というように、調査に参加した方が今でも10年前のことを覚えていてくださる、そして、当時私たちがお伝えしたことをご自分の生活に活用されている。これこそが、本当に我々が地域で調査をする際の原点なのだと思います。今、メガバンクでいろいろな調査が進んでいますけれども、これも、いま述べたような地域の方々との絆を生み出してくれるのだろう、ということを信じております。

 それから、教室員で受賞者が3名いました。疫学会でポスター賞を、柿崎さんと渡邉君が受賞しました。これは参加者が投票して、多い順にベスト3を決めるのですが、1日目は柿崎さん、2日目は渡邉君ということで、2日ともベスト3の賞をとったのはもちろん我々の研究室だけです。それを記念して、教室の前にそのときのポスターを貼っています。3つ目は、遠又君がシドニーで開催された国際栄養士学会でベストポスター賞を受賞しました。今日、3名の方それぞれから、後で受賞のスピーチをしてもらいたいと思っています。
 ベストペーパー賞になりますが、遠又君が緑茶と要介護の発生リスクとの関連について述べた論文で、American Journal of Clinical Nutrition、インパクトファクターが6.5という雑誌に掲載されました。後でベストポスター賞をあげたいと思いますが、遠又君はいま4年生で来年卒業しますが、そういった業績もありますし、教育熱心ですし、また、教室のいろいろなことも頑張って率先してやってくれて、みんなの模範になっていますので、来年の4月から助教に任命したいということで、手続を始めたところであります。遠又君にはこれからも頑張ってもらいたいと思います。
 人事ですが、今日ゲストとしてお話しいただく西野先生が宮城県立がん研究センターの部長にご就任、寳澤先生がメガバンクの教授にご就任ということで、大変うれしく思います。大学院生として、3名が新しく入りまして、秘書さんも異動がありました。それぞれ後でご挨拶してもらいます。

 最後になりますけれども、再来年の1月に日本疫学会の学術総会を仙台で開催いたします。仙台で開催するのは、2004年に久道先生がなさって以来20年ぶりです。テーマは「次世代の疫学を展望する」としました。私が20数年前にここに入局したときに、ちょうど始まったのがJACCスタディでした。そして、それから前後して国立がんセンターのJPHCが始まり、91年には深尾先生が宮城県コホートを作られ、そういった大規模コホートが始まったころに私は公衆衛生に入りまして、すごいことが始まるんだなと本当にわくわくしたことを今でも覚えています。それが四半世紀たって、コホートは成熟して、国際的なジャーナルに日本発のエビデンスが載るような状況になっているわけですが、それに加えて、新しい疫学研究が始まってきました。たとえば、メガバンクのような分子疫学もあれば、社会疫学もあれば、ヘルスサービスリサーチも進んでいます。また、ビッグデータ解析も疫学に入ってきました。そのような新しい疫学の潮流をここに丸ごと詰め込んで、みんなで疫学の将来像を考えてもらうということです。特別講演はハーバードのカワチ・イチロー先生にお願いしますし、前日の疫学セミナーはメガバンクとの共同開催という形で、世界と国内の主立った分子疫学コホートとバイオバンクについて話していただくという機会です。また、シンポジウムでは、「ビッグデータ解析に挑む」というテーマで幅広く議論していただく。そういった未来志向型の疫学を学び、考える機会にしたいと思います。懇親会は、ここ勝山館ということになっています。
 そういった形で、今年も本当に早く過ぎましたし、来年はもっと早くなるのかなと思いますけれども、教室員も忙しい中で本当に頑張ってくれているので、これから、もっともっと成果を出して、また来年、再来年と皆さんに自慢できるようにしたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

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