東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学専攻 公衆衛生学分野

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2013年度(平成25年度)公衆衛生学教室同窓会総会

会長挨拶

 皆さん、こんばんは。例によりまして、教室の研究、教育、人事について、この1年を振り返る形でお話をいたします。
 この1年間で私がいちばん時間を使ったのは公衆衛生大学院の設置構想をまとめることでした。そこで本研究科の公衆衛生学専攻は何を目指しているかを述べたいと思います。本研究科は、公衆衛生関係の研究活動が様々なところで行われているという点で、全国的に見てもユニークなところだと思っています。社会医学講座の7分野に加えて、メディカル・メガバンク機構、ヒューマン・セキュリティ国際教育コース、医科学修士課程の高度臨床研究支援者育成コースや遺伝カウンセリングコース、大学病院の臨床研究推進センター、我々がやっている地域保健支援センター、といった具合に色々なところが公衆衛生に関わっています。そこで公衆衛生学専攻を核としてそれぞれの連携を強化することで公衆衛生関連領域の教育研究の一大拠点を作りたいと思っています(図1)。

 さらには、基盤となる「公衆衛生の素養」というものを教えていくつもりです。公衆衛生の素養というのは、これは私が考えたものですが、「社会環境の視点から個人の健康問題を把握して、その解決に当たるスキルを有すること。個人と社会におけるよりよい健康の実現に貢献しようとする使命感を有すること」を意味しています。そのような共通基盤に立ったうえで、高度な専門性を追究していただこうと思っているわけです。
 専攻の構成は、社会医学講座7分野に加えて、発生・発達医学講座の遺伝医療学を移して、2講座8分野となります。講座の名称ですが、人々の健康を支える要因として、情報という軸と公共という二つの軸で考えてみました。情報健康医学講座は、健康を支える情報のあり方を考えることから、公衆衛生・疫学、医学統計学、医学情報学、そして遺伝医療学で構成されます。遺伝医療学は、遺伝情報・ゲノム情報を扱いますし、遺伝カウンセラーを作りますので、そういった意味で情報に関わっています。
 公共健康医学講座は、健康を支える公共のあり方を考えることから、医療管理学、環境保健医学、法医学、医療倫理学で構成されます。医療倫理学分野は、国際保健学教授の定年退職に伴って、作られました。実は一昨日の教授会におきまして、医療管理学の教授が決まりまして、北海道大学の藤森研司先生という方です。藤森先生は、DPC分析で世界的にも高い評価を得ている方でありまして、お迎えできて非常によかったなと思っております。医療倫理学教授も、次の12月11日の教授会で決まることになっていまして、まだ名前は言えませんけれども、本当にすばらしい方です。この2人が来てくれて、本学の公衆衛生大学院は非常にいいラインナップになるので、開学を楽しみにしています。
(註:医療倫理学教授として、浅井 篤 先生が選ばれ、平成26年4月に着任しました)

 公衆衛生学専攻のもう一つのウリが、臨床研究医養成1年コースというものです。これは、医師、歯科医師に臨床研究のスキルを教えるものです。臨床研修が終わったばかりの若いドクターにこの1年コース、修士課程に入っていただいて、その修了後は臨床の分野で博士課程に進むという前提ですので、その臨床分野の指導も受けながら臨床研究のプロトコールを1年かけて作ってもらいます。そして博士課程に進学したら、すでに作成したプロトコールに従って臨床研究を存分にやっていただきます。そうすると、恐らく4年の課程のうち、早期履修、3年間で済むと思いますので、修士課程1年と医学博士課程3年、合わせて4年で理想的にはMPHとPhDをとれることになります。"MD, MPH"という、インターナショナルに通用するディグリーになりますので、希望する人も多いと思います。このコースは、私どもだけでなく、大学病院の臨床研究推進センターとも一緒にやるわけですけれども、このような形を通じて本学を臨床研究のメッカにしたいと、そのようなことを考えている訳です。

 次に教室の人事ですが、今日来ていただいている大久保先生が帝京大学教授になられました。分野内では遠又君が助教になり、菅原さんが助手になりました。また、周さんが卒業して、国際交流支援室の助教に就任しまして、皆さんそれぞれ頑張っているところです。それから、新しく入った方ですが、博士課程に海法君が麻酔科から来ています。それから北大の修士の学生の伊藤さんが特別研究学生として内地留学となっています。
 ベストペーパー賞は遠又君が書いた論文です。食事パターンと要介護リスクとの関連というテーマでJournal of Gerontology に掲載されました。今日、彼は被災地で仕事をしておりまして、その帰り道が車の渋滞でまだ戻って来られないので、あとでまた紹介したいと思います。
 今回、研究科の方で、各分野の論文業績のレビューがありました。普通は掲載された雑誌のインパクトファクターを集計することが多いのですが、同じ雑誌に掲載された論文でも、よく引用される論文、あまり引用されない論文があるわけです。ですので、50回以上引用された論文のリストを全部出せというリクエストが研究科事務からありました。本研究分野では十幾つありました。ご愛嬌ですが、ベスト5をご紹介したいと思います(表1)。
 第5位は、New England Journalに載った、BMIと死亡リスクとの関連です。これは、100万を超えるアジア人のコホート研究データをプール解析したもので、我々もデータを出したから栗山先生と私が共著者になったということで、被引用回数115回でした。第4位は私の論文で、大迫研究のデータを使って家庭血圧の基準値を提案したもので127回でした。第3位が栗山先生の論文で、緑茶と死亡リスクとの関連ですね。JAMAに載りまして250回引用されています。第2位が、本日講演してくれる大久保先生の論文で、Journal of Hypertensionに掲載されて368回も引用されています。そこで第1位は何でしょうかということですね。被引用回数が677回で、BMIと死因別死亡リスクとの関連。これも第5位の論文と同じでデータを提供したことで共著者としてLancetに載って、それに私がいたというだけの話なんですけれども、これからもデータの国際的なプーリングが研究における一つの重要な要素になるだろうということを実感しました。

 これを見てもう一つ思ったことは、第5位と第1位はデータを出しただけですから、教室としてのオリジナルとは言い難い。それを外すと、第2位から第4位までの3つが教室から出たオリジナル論文のベスト3ということになります。すると、第3位が私で、年齢的にその次の栗山先生が第2位、そしてもっとも若い大久保先生が第1位ということで、若い人ほど業績が上がっています。これは、一つの研究グループとしての健全な姿だと私は思っております。ですので、今回はリストに出なかった、もっと若い先生方には、さらに被引用回数が多い論文をどんどん書いて、我々3人を超していただきたいと思います。その願いも込めて、紹介しました。
 それから、今年うれしかったことの一つに、医学科6年生の早坂君という学生が基礎修練の成果を論文にして、学生支援機構の学生顕彰大賞を受賞したことです。早坂君がとりまして、これは JAGSに載った論文ですが、歯の喪失と死亡リスクとの関連を検討したものです。学生支援機構の学生顕彰事業では、東北大医学部でも基礎修練などで英文論文を書いた人が受賞しているのですが、私どものところからは、彼で4人目の受賞です。これほど学生支援機構の顕彰を受けている研究室は、本学部では我々と押谷先生の微生物学分野が主なところです。その意味で、我々の教育能力の高さが全国的にも証明されているのだと誇らしく思っております。
 それから、おめでた続きで叙勲のお話をしますと、西郡先生が瑞宝小綬章を受章されました。福地先生が日本児童青年精神医学会の奨励賞、中谷先生が日本疫学会の奨励賞をそれぞれ受賞しました。学会発表では、第23回日本疫学会で柿崎さんが優秀演題賞を、菅原さんがポスター賞を受賞しまして、本当にうれしく思っています。
 このスライドは、会場でも配りましたけれども、被災者健康調査を震災以来半年ごとに行っていまして、5回目まで行いましたので、その結果をまとめて分かりやすいパンフレットを作って、被災者の方に役立てていただこうということで、菅原さんが中心になって非常にきれいなパンフレットを作ってくれました。これを全国に配ったりすると、色んなマスコミとか役所からも高い評価をいただいて、問い合わせも多数来ているところです。
 日本公衆衛生学会が開催された津で、教室の展示ブースを作りまして、先ほどのパンフレットを出しましたら、色んな人が取りに来て下さって、3日の会期のうち2日目でさばき切れちゃったくらい、評判が良かった訳です。しかも、とても素晴らしい方が来て下さいました。Kawachi Ichiro先生が学会で特別講演されて、その後ふらっと私たちの展示ブースまで来てくれたんです。ご覧になって、お話を聞いて下さったので、みんなでパンフレット持って記念写真を撮らせてもらうという、良い宝になりました。私はたまたまその場にいなくて、ちょっと残念でしたが、実はこのKawachi Ichiro先生が日本疫学会で仙台に来てくれるわけです。

 第24回日本疫学会学術総会は来年の1月24日、25日の予定で、旭ケ丘の青年文化センターで開催されます。演題申し込みが268題ありまして、これは歴代2番目に高い。去年の磯先生の学会で300以上いきまして、さすがにそこには届きませんでしたが、歴代2位ということです。学会テーマは「次世代の疫学を展望する」ということでやっていきたいと思っています。それに関連しまして、前日の市民公開講座は「運動と健康~早歩きは三文の得」ということで、昔の方は懐かしいと思いますが、藤田先生に講師をお願いしています。彼はここで学位をとりまして、今は阪大の准教授として運動疫学のお仕事をされている先生ですけれども、彼が演者をしてくれて、そして市民公開講座の運営は寳澤研が全部やってくれることになっています。そして疫学セミナーですが、この疫学セミナーというのは、実は第4回学術総会で久道先生が会長をなさったときに、疫学セミナーを初めて開催されまして、それ以降毎年続いているものです。今回のセミナーは、次世代の疫学との関連で、「ゲノムコホート研究とバイオバンク」をテーマとしています。疫学セミナーでは初めてだと思いますけれども、イギリスとオランダから先生方をお呼びして、初の国際シンポジウムということです。あとは国内のゲノムコホートを引っ張っている理研の久保先生、国立がんセンターの津金先生、そして栗山先生に講師をお願いしています。この運営は栗山研でやってもらうことになっています。つまり、このような関連行事を栗山研と寳澤研でやってもらって、そして学術総会本体は我々がやるという体制ですので、そういう意味では公衆衛生学教室だけでなく、そこから進化していった方々も含めて、オール東北大、オール仙台の体制で開催できること、非常にうれしく頼もしく思っております。本番まで、あと2ヵ月もない感じになりましたけれども、いま教室の全員で鋭意準備していますので、同窓会の先生方にもご支援いただきたいと思います。そこで一つお願いなんですけれども、昨今厳しい経済状況になりまして、企業などに協賛や寄附のお願いをしているのですが、まだ足りないところもありまして、同窓会からもご支援いただきたいということを後で西野先生からご提案いただきますので、よろしくお願いしたいと思います。
 そういった形で、いま教室としては、被災地支援の問題、それから公衆衛生大学院の設置、疫学会の開催準備、そして従来の研究教育もきっちりやっていますので、そういった意味で本当に皆さん忙しいところですけれども、そういう努力がさきほど紹介した論文の被引用回数の向上にもつながるような、いろんな実績になってくるのではないかと思っています。忙しいからこそ効率的に仕事が進んでいくものですので、現役の皆さんには大変かもしれませんけれども、一緒に頑張りましょうということで、私のお話にしたいと思います。

(追記)
お陰様で、第24回日本疫学会学術総会は盛会裡に無事終了しました。同窓会員の皆様のご支援に改めて御礼申し上げます。

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