東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学専攻 公衆衛生学分野

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2019年度(令和元年度)公衆衛生学教室同窓会総会

会長挨拶

 皆さん、こんばんは。
 恒例によりまして、教室の1年間を振り返ってみたいと思います。
 ことし、一番におめでたかったことは、1月17日に久道先生が「第68回河北文化賞」を受賞されたことです。ご覧いただいているスライドは、授賞式で久道先生が表彰状をいただいているところです。表彰状を改めてお読みしますと「がん検診の有効性を明らかにし多年にわたりがん対策の発展と公衆衛生の向上に寄与されたご功績に対し第六十八回平成三十年度河北文化賞を授与いたします」ということでした。誠におめでとうございます。
 次に、私が「日本医師会医学賞」をいただきました。11月1日に日本医師会の設立72周年記念式典にあわせていただきましたが、これは基礎医学、社会医学、臨床医学の各分野から1名ずつ、毎年3名が授賞されます。賞状を読み上げますと「あなたの「健康寿命に関する疫学研究と健康寿命延伸に向けた提言」の研究は医学の進歩に寄与し人類の福祉に貢献するところ極めて大であります。よってその業績に対し日本医師会医学賞を贈ります」ということでした。
 そのときに受賞講演がありまして、私自身の研究を振り返りましたので、簡単にご紹介したいと思います。私の研究者人生は、アメリカのJames F.Fries先生が書かれた“Compression of Morbidity”という論文に出会ったときに定まったと言っても過言ではありません。私が1991年にジョンズ・ホプキンズ大学に留学したときに、その論文を初めて知ったのですが、当時は大学の中でもCompression of Morbidityということが本当に起きるのかということが議論されていました。そこで、Compression of Morbidityを何とか実現したい、それが自分の研究者としての課題だと思いました。これが私のライフワークになったのであります。
 Compression of Morbidityとは、平均寿命の延び以上に健康寿命を延ばすということでして、その結果、不健康な期間あるいは要介護期間は短縮compressすることになります。それが実現すると、本人や家族のQOLは上がりますし、社会保障負担は減りますし、社会経済は活力に満ちてくるという、バラ色の夢が見えてくる訳であります。これを何とかして実現したいものだと思うようになり、そのためのエビデンス、そしてポリシーを作っていこうと思い定めて帰国したものでありました。
 最初に健康寿命を測るところから始まりまして、次に健康寿命を延ばすためのエビデンス創りとして鶴ヶ谷プロジェクトや大崎コホートを行い、エビデンスからポリシーへということで、健康日本21(第二次)で提言することができました。
 鶴ヶ谷プロジェクトについては皆さんご存じなので、あまり言いませんけれども、今にして思うと、やっぱりこれが日本の介護予防の原形であります。実際にプロジェクトをやってくれたのが寳澤先生で、彼は当時大学院生だったのですけれども、見事にやってくれまして、それが後々のメガバンクにもつながっていったのかなと思っております。改めてお礼を言いたいと思います。
 それから、大崎国保コホートも始まりまして、これも非常に大きかったと思います。健康寿命の延伸に関するいろんなエビデンスを出して、その後、たまたま健康日本21(第二次)の策定委員会の委員長を仰せつかりましたが、平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加ということを一番重要な目標にしました。これはまさにCompression of Morbidityですね。先日行われた健康日本21(第二次)の中間評価では、わずかではありますが、平均寿命の延び以上に健康寿命が延びていて、この6年間で男女とも不健康期間が0.3年程度、短縮していることが分かりました。6年間で0.3年の短縮って、大したことないじゃないのとおっしゃる方もいますが、国全体で Compression of Morbidityが観察されているのは、実は日本だけでありますので、これは一つの成果として位置づけた上で、さらにもっと高いところを目指すべきだと思ったわけであります。
 もう1人の受賞が丹治君です。今年3月に卒業しましたけれども、東北大学総長賞を受賞しまして、さらに修了生代表として大変立派な答辞を言ってくれまして、今は秋田で活躍しています。それから、陸君が辛酉優秀学生賞を受賞しまして、本当におめでとうございます。

 さて、医学賞の選考をきっかけに研究業績をどう評価するかを考えてみたので、ここでまとめてみたいと思います。業績評価の指標は、インパクトファクターの他にも、被引用回数とh-指数がありまして、この3つが教授選考の履歴書や科研費の申請書には必須の指標なので、ご紹介したいと思います。まずインパクトファクターですが、これは雑誌の評価であって、個々の論文を評価するものでありません。雑誌の評価は、さまざまな要因で毎年変わります。我々の2019年の論文業績に沿って、発表された雑誌のインパクトファクターを見ますと、遠又君が2本出して、菅原さんが1つ出して、張さんが何と5本も出したのですね。それから、阿部さん、小瀧さん、ヌリッカさん、大塚さん、眞鍋さん、成田君、靏蒔君、松山さん、劉さん、それぞれ1本ずつ出ています。
 インパクトファクターは、“Clinical Nutrition”が6.402で、今年度掲載された雑誌の中で一番高いですね。阿部さんと松山さんが、それぞれ“Clinical Nutrition”でファーストでした。阿部さんの論文は、日本食パターンの度合いが強い人ほど生存期間も長くなるというもの。松山さんの論文は、日本食パターンの度合いが改善すると要介護リスクも下がるというもの。そこで恒例のベストペーパー賞は、お二人に差し上げたいと思います。
 繰り返しになりますが、インパクトファクターは、あくまでも雑誌の評価であって、研究者個人や論文の評価にはならないのです。では個人評価はどうするかというと、一つは被引用回数ですね。これは論文ごとに何回引用されたかを計算します。したがって個々のペーパーの評価には適しています。そこで我が教室の被引用回数ベスト10の論文を今回調べてみました。
 表は、各自がファーストで書いた論文のうち、最も引用回数の多かった論文ということで10人分並べているのですが、トップが大久保先生の1,072回、すごいですね。Journal of Hypertensionで、夜間降圧と生命予後との関係を見たものです。第2位が栗山先生のJAMAで、緑茶と死亡リスクとの関連ですね。坪野先生が第3位で New England Journal、緑茶と胃がん罹患リスクとの関連です。これが、私たちの緑茶研究の始まりですね。第4位は島津先生です。今は国立がん研究センターにいますけど、International Journal of Epidemiologyに掲載された、日本食と循環器疾患の死亡リスクとの関連。これが実は日本食パターン研究の始まりとなるペーパーですね。ですから、かなり引用されている訳です。5番目が私でAmerican Journal of Hypertensionに掲載ですが、家庭血圧の基準値を世界で初めて提案したものです。第6位が深尾先生でInternational Journal of Cancerに掲載。これは胃がん検診の胃がん死亡リスク減少効果を検証したケースコントロール・スタディです。第7位が宇賀神君で家庭血圧のペーパーです。彼は薬学部の出身で、ここで2年間修士やって、今は製薬会社に勤務しています。第8位が寳澤先生の家庭血圧ペーパー、第9位が柿崎先生の睡眠時間とがん、第10位が曽根君の生きがいと死亡リスクとの関連。
 ということで、非常にユニークでハイレベルな研究がされていたんだなぁと、改めて思いました。テーマを見ましても、血圧もあれば、がん疫学もある。検診の評価もあれば、心理疫学もあり、日本食もあると、一つの領域に偏らない多種多様な研究をやっているのですが、どの領域でも常にトップクラスの研究を発表していることは誇らしい限りです。本当に皆さん、ご苦労さま、有難うと、改めて申し上げたいと思います。
 3つ目の評価指標は、h-指数です。これは個人評価に優れているとされています。ある回数以上引用された論文が何本あるかということを測るものです。計算方法ですが、まず自分が出した論文を被引用回数が多い順にずっとソーティングしていくのです。そして、h回以上引用された論文がh編あるところを探します。例えば50回以上引用された論文が50本あれば、h数は50ということになります。被引用回数と論文数、2つの数を同じものにしたところがミソで、これが究極の個人評価となっているわけです。
 ちなみに、私のh-指数は現時点で69です。つまり私がこれまで共著も含めて発表した論文の中で、69回以上引用された論文が69本以上あると。実際は70本あるわけですけれども、そういうような形になっています。我々の同門でいうと、トップはやはり大久保先生、第2位が私、第3位が久道先生でした。
 ということで、今日は受賞から始まって、業績評価に関する最近の動向、そして我々の業績がどういったレベルにあるかということをお話した訳ですけれども、これからも数値に基づく研究者の評価はさらに厳しくなっていくと思われますので、ぜひ皆さんも頑張って業績を積んで、さまざまなプロモーションや受賞につながっていくことを願いまして、簡単ですが私の挨拶といたします。
 どうもありがとうございました。(拍手)

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