東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学専攻 公衆衛生学分野

HOME > 教室同窓会 > 2011年度

2011年度(平成23年度)公衆衛生学教室同窓会総会

会長挨拶

 皆さん、こんばんは。お久しぶりの方もいらっしゃいますが、お元気そうで何よりです。
 この一年を振り返るとなると、どうしても大震災の話をしないわけにはいきません。天災のことを「ディザスター(disaster)」というわけですけれども、語源をたどりますとディス(dis)とアスター(aster)に分けることができて、アスターというのは星という意味です。一方、ディスの意味は2つありまして、ディジーズやディスコンフォートみたいな「悪い」という意味でいくと、ディザスターは「悪い星」「不運な星」という意味にもなります。一方、ディスコネクションのように「離れる」という意味もあります。それでいうと、ディザスターは「星が離れる」、「天道から外れる」というような形になります。いずれにしても、ディザスターは「運命」ということに関わってくるわけです。本当に運命としか言いようのない震災でありました。あれから、いろんなことが起こってきたわけですが、我々自身も「こんなはずではなかった」と思うことが沢山あって、大変苦労しました。大震災以降の日々を振り返って、そこから出てきたものについてお話をしていきたいと思います。

 今日の結論は、私の『病気になりやすい性格』という本の一番最後に書いたことですが、「運命というものは我々を幸福にも不幸にもしない。ただ、その種を提供するだけだ」ということ。これが、この半年余りの結論だったのかなと、私自身は思っております。
 まず教室の被災状況ですが、スライドのように大きな被害がありまして、これは給湯室の写真ですが、ここに誰かいたら大変だったなと思うんですが、お陰様で誰も怪我もなく幸いでした。これは教授室の写真ですが、本棚の前のガラス戸は全部割れてしまいました。図書室も、書棚が完全に倒れてしまい、半年がかりで最近直ったばかりという状況です。
 全国からの支援について簡単に言うと、研究科として、多くの方々から本当にいろんな物資をいただきました。たとえば岡山県立農業高校の生徒さんからは、昨年度の実習でつくったお米約2トンを全部無洗米にして送っていただきました。それを研究科事務の方々が各研究室に配ってくれました。その他にも毎日、1号館の下で大根とかネギとか、いろんな支援物資を配ってくれました。それを我々ももらって、お昼ごはんを作ろうという話になって、管理栄養士の遠又君と星さんが作ってくれました。どんなものを作ってくれたかというと、スライドのような美味しいものばかりで、本当にお昼が楽しみだったという時期がありました。

 そんな感じで震災直後の厳しい時期を乗り切ったのですが、それが一息ついた頃、山本・研究科長から「地域保健支援センター」というものをやって欲しいという話をいただきまして、震災から50日経った5月1日に発足させました。被災地の保健衛生システムの復興と被災者の健康支援を目的に学際的な体制を作り上げました。公衆衛生学に加えて、押谷先生の感染症学、平野先生の国際看護管理学、八重樫先生の産婦人科学、松岡先生の精神神経科学、永富先生の運動学、南先生の地域保健学の7つの分野と歯学研究科にもご参加いただきまして、9つのプロジェクトチームを作りました。我々は、地域調査と運動指導、栄養指導、さらに介護予防といった領域でがんばっています。そういったことを通じて、被災地に貢献していこうとしていたら、今度は厚生労働省から「被災者健康調査」ということで健診と地域支援を一体的に実施して欲しいという話が来ました。雄勝や牡鹿などの被災地区を健診して回って、その結果をもとに、運動指導、個別指導、運動指導、栄養指導をやってきました。それが多くのメディアでも報道されて、被災者のメンタルの問題が非常に大変だという話が出されているわけです。

 震災の後は、教室員の生活が変わってしまいました。この6月から11月にかけて、各教室員が被災地支援のために何回行ったかと見てみると、スライドのグラフのような結果でした。一番下に書いてある佐藤真理さんという方は、地域保健支援センターの専任教員、助手です。彼女は助産師で、国際経験やフィールド経験が非常に豊富な方です。そして、この5ヵ月で40回出張しました。つまり週2回から3回は、片道2時間以上をかけて現地まで行ってくれています。実際に、現地の人たちの信頼も厚く、彼女なしにセンターはあり得なかったと思います。
 公衆衛生学分野専属の教員・大学院生で見ますと、被災地支援・地域保健支援との関わりは人によって違うので、個々人について多いとか少ないということを言う気は全然ないのですが、1人だけ言うと、大学院3年の遠又君が運動・栄養指導を含めてかなり現地に行ってくれていて、30回近く行ってくれました。この話は出張回数を比べることが目的なのではなくて、私がほんとに言いたいことは、遠又君はこれだけ頻繁に出張して忙しく暮らしていながら、今年2つペーパーを書いたということです。1つは英文で、AJCNという栄養関係では一流の雑誌に投稿中です。今リバイズの段階まできましたので、多分通るのではないかと思います。もう1つは日本語ですが、これは介護保険の介護予防に係ることなので、ちょっと日本語でしか出せそうにないものです。投稿したばかりだと思うのですけれども、これが通ると、日本の介護予防のエビデンスとして非常に大きなインパクトを持つものと思います。こういった意味で、遠又君は非常に忙しい中でこれだけの仕事をしたということを、他の人たちは彼から大いに学ぶようにという意味で、いま紹介したわけです。そういうことで、遠又君には懇親会でちょっとご褒美を出しますので、スピーチを考えておいてください。

 それから、単に復興というだけではなくて再生を目指して、山本研究科長が頑張ってくださいまして、「東北メディカル・メガバンク」というものを作ろうとしています。これが三次補正予算で決まっておりまして、大体の概念図としてはメディカル・メガバンクというゲノムのバンクを作るわけですが、若いドクターが被災地の病院に勤務して血液や医学的なデータを収集して、そして大学に帰って研究をして、その成果をまた被災地に還元していくという形で、被災地を支援するなかで研究も発展させていくという形を目指しています。それを通じて、崩壊した地域医療の復興に尽くし、東北における医療産業の創出や雇用の確保ということも含めて、学問研究を通じて地域に貢献していく、そういった新しいモデルをつくっていこうということです。
 どれくらいの規模かというと、コホートを2本立てるという話になっています。1つは三世代コホートです。子どもとご両親と祖父母の三世代で、1万家系7万人のコホートを立ち上げる計画です。これは垂直コホートと言っているようで、世界的にも非常に例のないユニークなものです。それから水平コホートという通常のコホートですね、地域住民8万人という規模です。2つを合計して15万人のゲノムバンクをつくって、コホートとしてずっと追跡していく。それに加えて、オールジャパンの体制を作り上げる。つまり、バンクとして国全体の研究にも貢献していく。ということで、これは予算も含めて相当なビッグプロジェクトでありまして、これを基軸に医学系研究科自体も大きく変わっていくのかな、そういっためぐり合わせだったのかなということを改めて思います。

 そうしているうちに、今年の9月に学術会議から「わが国の公衆衛生向上に向けた公衆衛生大学院の活用と機能強化」という提言が出ました。その提言の要旨だけお話ししますと、第1に、公衆衛生大学院を設置する場合には、グローバルスタンダードとされている5教科、つまり生物統計学、疫学、環境保健学、社会科学・行動科学的方法論、医療管理、この5教科を必修とするために必要となる教員を確保しなさいということ。第2には、国は公衆衛生大学院が全国の8地方ブロックにそれぞれ1カ所以上整備されるように支援しなさいという提言が出たわけです。これを受けて、本研究科でも公衆衛生大学院を立ち上げたいと思っています。本研究科では、もともと社会医学講座に7分野あるという点で、いわば「地の利」があると言っていいでしょう。そして今度、東北メディカル・メガバンクを立ち上げるにあたって、現地フィールドでの調査研究業務やデータマネジメント、あるいは遺伝カウンセリング、さらには多様な疫学研究や臨床研究など、メガバンクを支える人材が大量に必要となります。その意味で、メガバンクと協働する形で教育研究の場を拡大するとともに公衆衛生大学院修了者のキャリアパスも開拓できる。その意味で「天の時」も見えてきました。さらには、メガバンクの疫学系を支える人材は、栗山教授を始めとする方々で、公衆衛生学分野の卒業生あるいは近い分野で頑張っていた仲間が多くいらっしゃいます。その点で「人の和」も問題ない。このような気持で、これから公衆衛生大学院をつくっていこうと思っております。

 さらに思っているのは、「2014年」ということです。日本疫学会の学術総会のことですけれども、疫学会の秋葉理事長から電話がありまして、2014年の学会長をやってくれないかと言われました。最初は断ったのですけれども、もう1回彼からメールがきまして、よくよく考えて受けることにしました。2014年というのは、久道先生が疫学会の学会長を務められてちょうど20年後、深尾先生が山形で疫学会の学会長を務められてちょうど10年後にあたります。もう一つ考えると、大崎国保コホートも2014年でちょうど20周年となります。そういった節目の年だなと思いました。もう一つは、2014年の1月ぐらいになりますと、東北メディカル・メガバンクも本格稼働していますし、公衆衛生大学院も動き始めているころだと思います。ですから、疫学会のために全国から来た方々にメディカル・メガバンクや公衆衛生大学院を見ていただいて、あるいはシンポジウムなども開催して、東北大学のアクティビティというものをアピールする良い機会なのではないかと思ったわけであります。

 そのような関係で、これから大変忙しくなると思いますが、頑張って成果を出していきたいと思っておりますので、どうぞ皆さん、よろしくお願いします。

<< 同窓会トップに戻る

↑ PAGE TOP